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仙台高等裁判所 昭和35年(う)355号 判決

被告人 桜田金治

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

論旨は要するに同別表乙号二四の金融機関中の銀行とは普通銀行を指し相互銀行がこれに含まれるものと解すべきでなく、右原判決は法令の解釈適用を誤つたものと主張する。

経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条が独占的又は統制的業務を行う会社、組合、又はこれらに準ずるもの、即ち別表乙号に各掲げるものの役職員の収賄行為を処罰する所以はこれら会社等の行う業務の公共的性質に鑑み、その業務を行う会社等の役職員に対し一般会社等の役職員と異り、特に厳正な業務の執行を期待するからに外ならない。右の見地から統制的業務を行う会社、組合に準ずるものとして別表乙号二四が金融緊急措置令に規定する金融機関(但し郵便官署を除く)を掲げているところ、同令第八条の規定する金融機関の定義中には「銀行」とあるだけで、相互銀行は示されていない。しかし、右措置令が昭和二一年二月一七日緊急勅令をもつて終戦後におけるわが国経済の再建方策の一環として、金融機関の既存の預貯金等の債務を封鎖し(同令第一条)、その資金の融通を制限する(同第六条)こと等を目的として制定施行された趣旨に徴するときは、同令第八条の金融機関たる「銀行」とは、他の法令に特段の定めがない限り、単に銀行法に基く普通銀行のみを意味するのでなく、日本銀行、いわゆる国策会社としての特殊銀行たる旧、日本勧業銀行、同北海道拓殖銀行、同日本興業銀行及び一般の特殊銀行例えば貯蓄銀行等のごとく、他の特別法により設立され銀行法第一条に規定する銀行業務を行う特殊銀行をも含むものと解するのが相当であり、このことは同令第六条、同令施行規則第一三条二項に基く金融機関資金融通準則(昭和二二年三月一日大蔵省告示第三七号)において資金融通の自主的規制を行うべき金融機関を定めるに当り、「銀行(日本銀行を除く)」旨規定していて同令第八条の金融機関たる「銀行」が普通銀行だけでなく、特殊銀行を含むことを前提していることからも窺われるのである。従つて相互銀行法(昭和二六年六月五日法第一九九号)に基き設立せられ、国民大衆のために銀行業務等を営む相互銀行は同令第八条の金融機関たる「銀行」に含まれるものと解すべきである。そしてこのように解することは同令同条に規定する金融機関たる無尽会社の業務中金銭無尽の業務を発展的に吸収し同業務をも行う相互銀行として実質的にも妥当な結論といわなければならない。

もつとも、同令第八条の金融機関たる「銀行」を右のごとく広義に解するときは、(1)前記法律別表甲号に日本銀行をとくに掲げ、別表乙号に日本勧業銀行、北海道拓殖銀行、日本興業銀行をことさら明示する要をみないとの論もあるが、日本銀行は同法第一条により金庫に準ずるものとして掲げられ、その役職員は公務員に準ずべきものとする要があるし、また、日本勧業銀行等は同法第二条の「特別の法令により設立された会社」、いわゆる国策会社たる特殊銀行として掲げられたものであり、以上の各銀行は本来同令第八条の「銀行」の観念に含まれるのであるが、これらの銀行は右のような観点から別表に掲げられた結果右「銀行」の観念から除外せられる趣旨を特に前記法律別表乙号二四は明記していると解せられるのであるから、日本銀行、日本勧業銀行等がとくに別表に掲げられているからといつて同令第八条の銀行を広義に解することの妨げとはならない。(2)長期信用銀行法(昭和二七年六月一二日法第一八七号)、外国為替銀行法(同二九年四月一〇日法第六七号)等に基き各設立され銀行業務を営む特殊銀行たる長期信用銀行、外国為替銀行等も当然、同令第八条の金融機関たる「銀行」に含まれると解せられるのであるから、右各法律(前者第一八条、後者第一二条)がいずれも、「銀行法及びこれに基く命令以外の法令において銀行とあるのは別段の定めがない限り、長期信用銀行又は外国為替銀行を含むものとする」旨規定しているのは、少くとも同令の解釈に関する限り注意的な規定と解すべく、これらの法律以前に制定せられた相互銀行法にかかる規定を欠くからといつて同法に基く相互銀行が同令の金融機関たる「銀行」に含まれないと論断すべきものではない。(3)同令第一条が金融機関の昭和二一年二月一七日現在における預金その他金融業務上の債務について封鎖し(なお、廃止前の同令第四条同令施行規則第一一条をも参照)ていることからみて、同令第八条の金融機関たる「銀行」とは、右基準日に現に存する金融機関たる銀行の意であり、基準日の後の昭和二六年に制定された相互銀行法に基く相互銀行は右「銀行」に含まれるはずはないとの見解も一応考えられるけれども、同令第六条の金融機関の資金融通の制限の規定は単に基準日当時現存した銀行のみを対象としたものでなく、将来、特別法に基き設立されることあるべき特殊銀行をも予想したものとみられるので、基準日以後に相互銀行法により設立された相互銀行が、右「銀行」に含まれると解することの妨げとはならない。

以上要するに、相互銀行は預金の受入、資金の貸付等の銀行業務の面において前記法律第二条の「経済ノ統制ヲ目的トスル法令ニ依リ統制ニ関スル業務ヲ為ス会社」に準ずるもので、別表乙号二四に掲げる金融緊急措置令に規定する金融機関たる銀行に当ると解すべきであるから、これと同趣旨の見解の下に相互銀行の支店次長として支店長を補佐し、同店の銀行業務全般を担当する被告人が同店の貸付業務に対する謝礼として金品の供与を受けた原判示各収賄の事実に対し、原判決が経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条を適用処断したのは正当であつて、原判決には所論のごとき法令の解釈適用を誤つた違法はなく、論旨は理由がない。

(裁判官 籠倉正治 有路不二男 岡本二郎)

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